PROJECT REPORTプロジェクトレポート

REPORT 0015

傾斜センサーとWEBを利用した法面の遠隔監視システム(その2)

2022.08.30

【課題番号0005】長期間低コストでインフラ施設をモニタリング

 

【インフラ運営・維持管理上の課題】

 インフラ施設の管理者にとっては、現地に足を運ぶことなく遠隔地から状況を把握できるモニタリング技術があると、適切なタイミングで現地の状況を把握し、時期を逃さずに的確な措置につなげられます。また、その技術が長期間・低コストで維持できるのであれば、監視すべき箇所が多い道路においては有効な監視システムと考えられます。

 

【実証技術の概要】

〇傾斜センサーと遠隔監視システム

 今回実証実験に用いたシステムは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を活用し、特定小電力無線を採用して小型軽量化、省電力、そして低コストであり、設置は大人二人で30分あれば設置可能であり工事も非常に簡易です。
 主な特徴は以下の通りです。

  1. 法面に設置したセンサーや雨量計の状況を、遠隔地で監視できます。また、WEBカメラによって現地状況も確認することができるため、現地に赴く必要がありません。遠隔監視により、効果的なタイミングでの現地の状況把握が可能です。
  2. 法面崩落の前兆を示す閾値を予め設定しておけば、自動で警報メールを発信します。閾値は3段階(Lv1~Lv3)で設定し、第一段階で要注意、第二段階で現場サイドへ警戒伝達、第三段階で接近禁止のように、崩落のリスクに対して余裕をもって対応できるようになっています。
  3. センサーは乾電池、現地のシステムはソーラーパネルによるバッテリー充電方式なので、長期間・低コストで運用が可能です。
  4. センサーは小型軽量・設置も容易で,全体として低コストを実現しました。


システムの概要


〇監視カメラ
 カメラは屋外仕様で、画像の画素数を極力小さくし(200万画素)、また夜間撮影が可能な赤外線機能を不採用とすることで、商用電源100Vではなくソーラーパネルとバッテリーでの12Vで安定稼働が実現できる省電力かつ安価な仕様のカメラを選定しました。
 カメラ画像は静止画で、基本的に1時間に1回の頻度で自動記録保存されます。さらに現時点での画像が見たい場合は、カメラを起動させ撮影することが可能です。


監視カメラ(左)とカメラ撮影画像(右)


Web上でのカメラ画像の記録状況(1時間に1回の頻度で画像は自動記録保存)

 

【実証フィールド】

 本システムの検証を行うため,2019年2月から、以下の盛土サイト(知多半島道路:上kp3.95~3.97付近)1ヶ所,切土サイト(南知多美浜料金所敷地内)1ヶ所の合計2ヶ所で実証実験を行っています。なお、切土サイトは2022年3月にモニタリングを終了し、盛土サイトは継続してモニタリングしています。


位置図及び設置状況

 

【実証試験結果】

 2019年2月22日にWEBを開設し,監視を開始しました。切土サイトと盛土サイトに大別して以下に結果を記します。なお、予め3段階の閾値(管理基準値)を設定し、傾斜角度の計測データが閾値を超過した際には、どの地点がどの段階の閾値を超過したかが一目で分かるような警報メールを配信するシステムを構築し運用しました。閾値の考え方は、REPORT0008に記載されています。
◆切土サイト:南知多道路 美浜料金所敷地内
 切土サイトでは約3年間の監視をおこないました。その結果、全3計器ともまとまった降雨に反応し、傾斜角度の一時的な増大が認められ警戒Lv1を超過しましたが、警戒Lv2を超過することはありませんでした。また、監視開始から終了までの累積傾斜角度は、全3地点(X・Y軸)とも1度以内で小さく、その間傾斜角度の大きな累積も認められませんでした。ただし、MK-1のX軸にて、2019年10月の台風19号及び21号通過後に、緩やかな傾斜角度の増大が継続して認められましたが、これはすべりの兆候ではなく表層のゆるみを反映しているものと思われます。


2020年豊水期の監視結果(左)と2021年豊水期の監視結果(右)


監視開始時から終了時までの結果


◆盛土サイト:知多半島道路(上)kp3.95~3.97付近
 盛土サイトでは現在まで約3年間の監視をおこなっており、継続中です。その結果、6計器ともまとまった降雨に反応し、一時的に傾斜角度の増大が認められた際は、警戒Lv1およびLv2を超過しました。しかし、当サイトでは晴天にも関わらず、警戒Lv1及びLv2を超過する傾斜角度の一時的な増大が比較的頻繁に認められました。この原因としては、MEMS加速度センサーにより傾斜角度を計測する仕様の傾斜センサーの特性によるものと考えられ、傾斜センサーは振動の影響を大きく受ける特徴があります。つまり、通行車両の振動が10分間隔の計測タイミングに重なった場合、その振動の振れは傾斜角度の増加と見做されるため、一時的に傾斜角度が増大した計測結果になります。そのため、次の10分後の傾斜角度は通行車両の振動と計測タイミングが重ならない限りは元の傾斜角度が測定されるため、傾斜角度の累積は認められません。この様に当サイトは振動が伝わりやすい盛土地盤である可能性が高いと思われます。この様なケースで警報メールが配信された際は、「傾斜角度の累積」、「降雨の有無」、「監視カメラ画像」を確認後、必要に応じ現場確認をおこないました。なお、監視開始からの累積傾斜角度は、6地点(X・Y軸)とも概ね1度以内で小さく、傾斜角度の大きな累積も認められませんでした。なお、CK-1のX軸のみ2019年10月頃から傾斜角度が増加し、2020年2月にピークを迎え、2020年6月頃に比較的傾斜角度が小さくなっています。この現象を反映したメカニズムははっきりとは分かりませんが、法肩部付近に位置するCK-1付近の極めて狭い範囲にて、表層の土塊がプラス方向の法面下方に動き、その後表層の動きに追随するようにその下層の土塊のみが法面下方に動いたことで、見掛け上傾斜角度は元に戻った可能性があると考えられます。しかしながら、この極めて局所的な表層の動きは、他計器の結果をから判断しても、盛土法面全体の安定性には影響を及ぼしていないものと考えられます。


監視開始時から終了時までの結果


2020年豊水期の監視結果(左)と2021年豊水期の監視結果(右)


 一方、豊水期の監視結果に着目すると、2020年と2021年の降水量は2019年に比べ少なく、6点(X・Y軸)ともに降雨に反応した傾斜角度の僅かな変化は認められましたが、2019年の台風19号と21号通過時に相当する大きな変化は認められませんでした。2019年の計測結果の詳細は、REPORT0008に記載されています。ご確認ください。
 前記した様に、現時点では警戒Lv1及びLv2を超過する警報メールが比較的頻繁に配信されていることから、今後は「2回連続して管理基準値を超過した際にのみ警報メールを配信するシステムの運用」を検討し、いわゆる“空振り”にならないよう有意な危険情報を配信するようにしたいと考えています。

 

【期待される効果と導入】

 今回の実証実験で、盛土および切土の斜面安定性の変化と台風等の大雨との明確な因果関係が認められ、現場環境で変化する盛土・切土の安定性を適切に評価していることが実証されました。本システムを導入することで、目視評価の難しい盛土および切土の斜面安定性を実測データにより定量的に評価できるだけでなく、現地確認に行かなくてもリアルタイムに現地状況を確認することが可能となりました。このシステムは、道路利用者に安全・安心な道路環境を提供することに寄与するだけでなく、警報に対して適切な対処を行うことで、法面等に異常が発生した際の対応の迅速化も期待できます。
 この結果から、本システムを知多半島道路および南知多道路に移設・増設し、実務に導入することとなりました。なお、本モニタリングシステムは現在3ヶ所の盛土サイトにて運用しています。


社会実装への導入(新規2ヶ所の盛土サイト)

 

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 【REPORT 0008】傾斜センサーとWEBを利用した法面の遠隔監視システム

 

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