REPORT 0017
コンクリート床版の土砂化劣化予測技術
2022.10.19
1.インフラ運営・維持管理上の課題
近年のインフラ維持管理は,劣化が顕在化してから大規模修繕・更新を実施する「事後保全」という従来の考え方から,顕在化する前に小規模な修繕を実施しライフサイクルコストを低減する「予防保全」という新たな考え方への転換が提唱されています。(参考:図-1)
しかしながら,「予防保全」の実現には課題も多く,なかでも正確な点検と精度の高い劣化予測手法の確立が必要不可欠です。
このような背景から,本検証においては道路橋梁の床版を対象とした新たな劣化予測手法の検証を行い、その劣化予測結果と実構造物の劣化状況を比較することで新たな劣化予測手法の評価を実施しました。
図1.事後保全と予防保全の比較
引用:社会資本整備審議会道路分科会 第41回基本政策部会 配布資料その2 持続可能で的確な維持管理・更新
(国土交通省HP:https://www.mlit.go.jp/common/000229315.pdf)
2.本検証の目的
本検証は橋梁床版の劣化の中でも,図-2に示すような床版の土砂化という重要劣化項目に着目し,その予防保全の実現を目的としています。この目的を達成するためには以下2点の課題を解決する必要があります。
① 実用的な(簡易かつ精度を有した)床版劣化予測手法の妥当性について検証する
②(①の手法を利用した)予防保全型の維持管理計画(案)を提示する
これらの2つの課題を解決すべく,本検証では愛知有料道路の床版を対象として,新たに構築した土砂化予測手法の精度を評価するとともに,予測結果を基に維持管理計画を立案しました。
図2.床版の土砂化事例
(国土交通省HP:https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/yobo3_1_4.pdf)
3.床版劣化予測の概要
本検証で用いた新たな土砂化の予測手法を図-3に示します。コンクリートの土砂化発生のメカニズムは,コンクリート内部の空隙に降雨・降雪に由来した液状水が侵入し,その周辺に発生した外力により内部の水圧が増減することに起因すると考えられています※1。東京大学コンクリート研究室では既往の研究において,コンクリート中の空隙内部の水圧算出モデル※2と鉄筋コンクリート非線形解析プログラム(COM-3D)を用いて,水圧による土砂化損傷をモデル化しました※3。
一方で,土砂化の発生時期は輪荷重(タイヤから伝わる車両による荷重)の載荷回数との相関関係が認められています。同研究室はその相関関係に基づいて,床版に浸透した間隙水の水圧や橋軸直角方向に生じる応力との因果関係(図-3)から,土砂化発生時期を予測する簡易式を導出しました。この簡易式は,実環境への適用を意識した構成となっており,床版厚さや年間交通量といった実務上取得が容易な値を入力変数としていることが特徴です。図4に床板劣化の予測手法を示します。劣化予測に必要なデータは、構造、荷重、材料、環境、交通の5項目に関する10個のデータであり、簡易に劣化予測をすることが可能です。
図3.土砂化に関する水圧と橋軸直角方向応力の因果関係
(参考文献:東京大学大学院工学系研究科社会連携講座インフラ・材料構造の次世代性能評価技術の開発 成果報告会)
図4.床版劣化の予測手法
(参考文献:東京大学大学院工学系研究科社会連携講座インフラ・材料構造の次世代性能評価技術の開発 成果報告会)
4.検証フィールド
本検証における土砂化の評価対象は,愛知県有料道路運営等事業の対象路線のうち「猿投グリーンロード」の全35橋とし,各橋梁に対して土砂化の発生時期を予測しました。猿投グリーンロードは名古屋市及び東部丘陵地域と国道153号を結ぶ延長13.1kmの道路です。
図5.猿投グリーンロードの概要
5.検証結果
簡易式から実際に猿投グリーンロード全35橋のうち,加納橋と菊谷橋の土砂化発生時期を予測した結果と,補修時に計測した実測値を比較したグラフを図-6に示します。土砂化発生予測においては,図-4に示した10個のインプットデータのうち,真値の計測が現実的に難しい項目(車両の走行位置など)について,①平均的な値を採用するパターン(グラフ:灰)と,②より構造物の損傷が進みやすい厳しい条件となる値を採用したパターン(グラフ:青)の計2パターンで計算を実施しました。
グラフ中に橙で示した実測値と2パターンの予測曲線を比較すると, ①パターンは実際の土砂化深さよりも小さい値を示しているものの,②パターンは実測値+1.5~2.0cm程度の値と推定しており,安全側かつ比較的小さい誤差で土砂化深さが予測されていることが確認できました。
(a) 加納橋
(b) 菊谷橋
図6.土砂化予測と補修実績の比較
また,床版の土砂化に着目した累積対策費の試算結果を図-7に示します。(a)は土砂化が発生した後に断面修復を行う事後保全(成り行き)の条件で,(b)は簡易式により発生時期を予測し事前に防水工の更新を行う予防保全の条件でそれぞれ補修費用の推移を試算した結果です。両者の価格推移を比較すると,予防保全シナリオでは初期段階に損傷対策に追加して防水工を実施するため,事後保全シナリオの累積費用を上回っていますが,6年次以降の事後保全シナリオは,防水工を実施していない為に劣化が進行し,30年後には大幅な差が生じると試算されました。
図7.土砂化に着目した累積対策費の試算結果
6.期待される効果
本検証では予防保全の効果と土砂化予測簡易式の有用性を実証しました。簡易式により床版の土砂化発生時期を予測することで,橋梁の将来的な危険度の見える化が図れるようになります。また,劣化が深刻化する前に予防対策を講じることで,維持管理費の低減が実現できると考えています。
先進技術保有企業
東京大学 工学系研究科 社会基盤学専攻 コンクリート研究室
HP:http://concrete.t.u-tokyo.ac.jp/ja_2017/
首都高技術株式会社
HP:https://www.shutoko-eng.jp/
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