PROJECT REPORTプロジェクトレポート

REPORT 0014

橋梁のUAV点検における適用橋種の拡大とコストの精査

2022.01.21

本技術実証は、課題番号9999「自由テーマによる先進技術の提案窓口」に対して、橋梁のUAV点検における適用橋種の拡大とコストの精査を検証したものです。

 

1.インフラ運営・維持管理上の課題

 

 道路橋の定期点検においては、平成31年2月の点検要領の改訂により、点検技術者の目による近接目視を補完・代替・充実する点検ロボット等の新技術の導入が可能となりました。

 しかし、実際の業務で本格的に活用された事例はまだ少なく、ドローンを使用した点検(以下、UAV点検と表記)についても、その可能性に期待されながら、採用機会が非常に少ないのが実状です。この原因として、以下の問題点と実務上の課題があると考えます。

 

《 UAV点検の現状の問題点と課題 》

①検証されている橋梁の種類が限定的 → 未検証の橋種への実証が必要

②導入した際の実際のコストが不明瞭 → コストの精査と採算検証が必要

 

 

2.今回実証実験の課題

 

上記をふまえ、今回実証実験では以下の課題に取り組み、検証を行いました。

 

2-1.未検証の橋種への実証実験の実施

 まだ検証していないPC桁橋や鋼桁橋に対して実証実験を行い、これらの橋種においてもUAV点検が適用可能かどうかを検証しました。表1にUAV点検の実績と展開を示します。

 

表1.UAV点検の実績と展開


2-2.コストの精査・検証の実施
 点検業務実施者に実際にかかるコストについて精査し、実務導入を見据えた採算性を検証しました。表2にコスト精査の概略を示します。

 

表2.コスト精査の概略


3.UAVを活用した橋梁点検システムの概要


 実証実験は、(株)デンソーのUAV点検システム(図1)を用いて実施しました。

 図2にUAV点検オペレーションのカタログを示し、図3にUAVによる点検状況を示します。点検対象部材に対し3~5m程度の距離までUAVを飛行・接近させ、搭載カメラで部材全面を飛行撮影し、部材に生じている劣化・損傷の有無及び定量的な情報(ひびわれ幅・長さ、漏水範囲等)の検出・判定及び損傷図・損傷写真の作成データとしての記録を行うものです。

 

図1.デンソーUAV仕様

 

図2.UAV点検カタログ


NETIS番号:KT-200057-A
https://www.netis.mlit.go.jp/NETIS/pubsearch/details?regNo=KT-200057%20
性能カタログ登録番号:BR010012-V0121
以下、PDFの2-1-100に記載
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/inspection-support/pdf/11_1.pdf

 

図3.UAVによる点検状況 

 

 

4.実証フィールド


 今回の実証フィールドには、図4に示す衣浦豊田道路(PC箱桁橋)と図6に示す名古屋瀬戸道路(鋼少数主桁橋)の2地点を選定しました。実証範囲(UAV点検対象範囲)を図5および7に示します。

 

4-1.衣浦豊田道路

 

図4.衣浦豊田道路 豊田知立高架13号橋

図5.実証範囲図(衣浦豊田道路)

 

4-2.名古屋瀬戸道路

 

図6.名古屋瀬戸道路


図7.実証範囲図(名古屋瀬戸道路)

 

 

5.検証結果


5-1.UAV点検の実証結果 ※ここでは一部の部材の点検結果を示します。

5-1-1.衣浦豊田道路(PC箱桁橋)

 UAVを速度0.4m/sで飛行しながら正対撮影にて記録した写真画像です(図8)。現地に生じていた0.1mm幅のひびわれをはっきり抽出できています(図9、図10)。その他のひびわれや「打ち継ぎ目」の見極めもできており、点検者の近接目視と同等の結果が得られていると判断できます。


図8.損傷図(床版下面A部)

 

   

    図9.床版ひびわれ                 図10.床版ひびわれ拡大図(幅0.1mm)

 UAVを速度0.4m/sで飛行しながら45度の角度からのあおり撮影にて記録した写真画像です(図11)。現地には目立った損傷がなかったため、あらかじめ張り付けたクラックスケールの幅を抽出しています。
 主桁側面のような狭い空間での鉛直部材面には、このようなあおり撮影で対応します。その画像に正対補正をかける際、画像の精度が落ちてしまうのですが、それでも本機の場合では0.1mm幅程度まで抽出できることを確認しました(図12、図13)。
 すなわち、桁橋タイプのコンクリート橋に対しても、点検への適用が可能と考えられます。

 


図11.損傷図(主桁側面C部)

 

     

 図12.クラックスケール写真         図13.クラックスケール写真拡大図

 

5-1-2.名古屋瀬戸道路(鋼少数主桁橋)

 UAVを速度0.4m/sで飛行しながら正対撮影にて記録した写真画像です(図14)。現地に生じていた0.1mm幅のひびわれ(図15)、遊離石灰を問題なく抽出できています。コンクリート橋と同様、点検者の近接目視と同等の結果が得られていると判断できます。

 

図14.損傷図(床版下面)

 


図15.床版ひびわれ

 鋼部材の損傷抽出においては、「亀裂」を除き、コンクリート部材(特にひびわれ)ほどの精度を要しないこと、一方でコンクリート部材よりもさらに狭い空間での作業が求められること、部材が複雑多様であること等をふまえ、UAVに全天球カメラを搭載し、実験したものです(図16)。
 この撮影方法においても、鋼部材の主要な損傷は概ね抽出可能だろうと判断できる結果を得ました。一方、多主桁のような狭隘空間でのケースでも作業性に支障はないか、撮影箇所数はどれくらい必要になるか、オルソ画像への展開は問題なく可能か等、他の場面で更なる試行が必要であり、次への課題が明確になりました。

 

図16.全天球カメラによる鋼橋の状況


5-2.UAV点検コストの比較検証

 今回実証を行った衣浦豊田道路(PC箱桁橋)にて、UAV点検方法と従来方法(大型橋梁点検車使用)のそれぞれについて、必要コスト(ここでは点検業務実施者にかかる実コスト)を算出し、試算・比較検証を行いました(ここでは1径間分、橋面積A=873㎡にて試算)。(図17および表3)
 従来方法での点検作業日数は点検面積(=橋面積)で算出され、今回ケースでは「1日」となります。また、高速道路上の交通規制が上り・下りで2回分必要となり、以上から当該径間の点検コストは155万円と試算しました。
 UAV点検では、実際の点検面積を計上する必要があることから、橋面積に加え、主桁等の側面及び橋脚梁部材まで計上し、以上から当該径間の点検コストは150万円(1㎡当たり1,100円程度、画像解析費含む)となりました。よって、UAV点検費は大型橋梁点検車を使用する必要のある橋での場合は同等コストかそれ以下ということ結果となりました。
 すなわち、大型橋梁点検車や高所ロープ作業、調査足場の設置を必要とするような、近接目視のために多額の費用がかかる橋においては、UAV点検はコスト削減の点で非常に有効な手段となります。
また、UAV点検を補助的に導入し、近接目視点検と併用するような方法でも、点検車使用日数や規制日数の削減によってコスト削減が可能です。よって、UAVの「得意」とするところをよく理解し、「うまく利用する」ことが重要と言えます。

 


図17.検証ケース 衣浦豊田道路(PC箱桁橋)

 

表3.衣浦豊田道路における従来方法とUAV点検のコスト検証結果



6.検証結果の総括と今後の課題


6-1.総括

コンクリート桁橋での実証結果(点検精度)は特に問題ない。
45度の角度からあおり撮影により取得した画像でも、ひびわれは十分に検出できました。
よって、コンクリート橋では、桁橋構造に対しても十分に適用可能と考えます。
鋼桁橋での「全天球カメラ」を使用した点検の結果も良好。
鋼部材に対し、全天球カメラを搭載した飛行撮影の作業性及び取得した画像の精度(見え方)としては、概ね良好な結果を得ました。よって、このような手法を用いた鋼桁橋への点検は、一定の範囲内において十分可能であると考えます。
しかし、本格的な実装に向けては、まだ少し、このほかの鋼桁橋でのさらなる試行が必要です。

点検コストは大型橋梁点検車を要する場合に同等程度以下とできる。

リース代が高価な点検車が必要な橋では、点検コストの削減が可能と考えます。

(言い換えれば、高所作業車や梯子程度で近接目視点検が可能な橋では不利)

 

6-2.今後の課題
コンクリート桁橋の適用範囲の整理
コンクリート橋については、ほぼどの形式においても適用可能であり、「実証」段階から本格的な「実装」段階に入っていると考えます。今後は実際の業務で役立つ適用上の設定整理が求められます。
 ・コンクリート桁橋の構造幅、構造高さの適用範囲(限界値)の整理
  ⇒効率的な現地踏査や点検計画の立案に有効
 ・カメラの標準設定化(撮影角度・離隔・速度、シャッタースピード、露出値、ISO感度等)
  ⇒飛行撮影時の作業時間や作業ロスの低減に有効
鋼桁橋へのさらなる実証の積み重ね
全天球カメラを用いた今回の方法は、鋼部材に対するUAV点検の一つの方法として、その可能性を見出すことができました。今後はさらに下記のような課題に対して引き続き実証を積み重ね、鋼桁橋への点検方法を確立していく必要があります。
 ・多主鈑桁橋でも同様の作業性で実施可能かどうかの検証
 ・全天球カメラで必要な撮影箇所数の確認
 ・オルソ画像への展開が問題なく可能かどうかの検証
 ・点検者の近接目視とUAVの役割分担(すみ分け)の整理
 ・この方法での点検コストの再検証

本技術は有用性とコスト的なメリットも確認されたため、橋梁定期点検において、一部橋梁区間で実際に本技術を適用し、点検業務の効率化を図りました。なお今後も本技術を活用していく予定です。

 

 

先進技術保有企業

株式会社デンソー まちづくりシステム開発部 UAVソリューション事業推進室
(共同研究企業 中日本建設コンサルタント株式会社 建設技術本部)

 

お問い合わせ窓口

マエダアクセラレートフィールズ事務局
TEL:0297-85-6606
Mail:jimukyoku-aaf@jcity.maeda.co.jp