PROJECT REPORTプロジェクトレポート

REPORT 0012

電池駆動センサーを用いた省電力無線モニタリングシステム技術

2021.07.08

 本技術検証は課題番号0005「長時間低コストでインフラ施設をモニタリング」に対して、電池駆動の無線センサーを使用し、マルチホップ通信によって離れた箇所のモニタリングを同時に行ったものです。 

 

 

図1 計測のイメージ

 

インフラ運営・維持管理上の課題

 道路インフラは24時間365日動き続けており、いつ起こるか分からない事故や災害に備えて休むことなくインフラを構成する多数の構造物の状況を監視し続けることが必要です。そのため、例えば、崩落が懸念されるのり面を簡易な装置で挙動モニタリングしたり、橋梁ジョイント部において地震時に段差が発生したかを簡易な装置で早期に検出したりなど、遠隔から状況把握できるようにすることによって適切なタイミングで現地の状況を把握し、時期を逃さずに的確な措置に繋げられるようになることが求められています。しかし、現状では、モニタリング装置の設置や導入にイニシャルコストと時間がかかり、通信や装置の管理などのランニングコストもかかるため、なかなか普及していないのが現状です。

 

実証フィールド

 愛知県知立市内の衣浦豊田道路牛田料金所近辺の橋梁に、電池駆動の無線加速度センサー、無線変位計および無線カメラセンサーを設定し、省電力無線モニタリングシステムの実証実験を実施しました。設置した無線センサーの配置を図2に示します。

 本実験では、料金所付近の桁2カ所に設置した無線加速度センサーで加速度データの計測およびセンサー側での分析処理を、料金所へつながるランプの主桁両端に設置した無線変位計および無線カメラセンサーで水平方向及び垂直方向の変位計測を実証しました。

 

                                                                                   (地図データ©2019 Google)

図2 実証実験現場におけるセンサー及びゲートウェイ装置の配置

 

先進技術の概要

 現地へ設置した省電力無線モニタリングシステムの構成を図3に示します。

 

図3 モニタリングシステムの構成図

 

 省電力無線モニタリングシステムは、センサーデバイスが電池で駆動し、かつ無線で通信するため、センサーデバイスを設置する現場に電源工事や通信配線工事が不要となり、システムの導入が容易です。また、電波の到達距離が比較的長く隅々まで届きやすい特性を持つ920MHz帯無線周波数を利用し、さらに無線センサー間でデータを中継するマルチホップ通信機能を実装したため、広い範囲にセンサーを設置できます。マルチホップ無線センサーで収集したデータは、現場に設置したゲートウェイ装置により3G/LTEなどのデータ通信網を介してデータベース(DB)サーバーに保存します。DBサーバーに保存したデータは、Webブラウザで閲覧したり、分析したりすることができます。実証実験では、無線加速度センサー、無線変位計、無線カメラセンサーを実環境に設置してシステムの動作を実証しました。

 本システムの技術の特徴は、比較的電力消費が大きい無線通信時の電力消費を極力低減すると共に、低消費電力を徹底した基盤設計を行い、長期間の電池駆動を実現した点にあります。さらに、送信データを削減してより省電力な計測データ収集を実現するために、センサー側で計測データを分析する機能を開発し、不要なデータ送信を削減しています。例えば2分間の加速度データから平均周波数スペクトルを分析する場合、データセンター側に送信して分析する場合と比較して送信データ量の96.5%、測定時消費電力量の2/3を削減できました。分析処理としては、加速度データから周波数スペクトルおよびたわみ量を分析する処理やカメラ画像から主桁の変位を分析する処理を検証しました。また、より消費電力が高いゲートウェイ装置についても、太陽電池と2次電池を組合せ効率的に充放電する仕組みを備えたゼロエナジーゲートウェイを開発し、電源レスでの動作を可能にしています。

 また、マルチホップネットワークでは、通常は中継器がいつでもデータを受信できる必要があるため、すべてのセンサーをスリープさせることが困難でしたが、本システムでは中継器を含むすべてのセンサーをスリープさせながら、データの欠損などを回避して高い通信品質を保つ技術を開発しています。そのうえで、スリープ中でもサーバーからの指示が有れば即時に起動して計測を開始する機能も実装し、緊急時の利用を可能としました。さらに、インターネット経由で監視端末をサーバーに接続することにより、計測開始/停止の指示、計測中のデータの閲覧、DBに保存された過去のデータの参照などができます。

 

先進技術の現場検証結果

 図4に閲覧画面の例として主桁に設置した無線変位計の計測値のグラフを示します。無線変位計には温度センサーも内蔵しており、変位と合わせて温度も計測できます。

図4 センサーデータの閲覧画面例(無線変位計)

 

 主桁が温度変化に従って水平方向に伸縮していること、垂直方向の変位はほとんど無い事が計測できました。また、水平方向の伸縮範囲は構造物の一般的な温度変化による変位の範囲と確認できました。

 

 無線加速度センサーでは、センサー側での分析処理として周波数スペクトル分析とたわみ量分析を実証しました。分析した周波数スペクトルを図5に、収集したたわみ量のヒストグラムを図6に示します。

 

図5 周波数スペクトル分析結果

 

図6 たわみ量分析結果

 

 橋梁桁が劣化すると周波数スペクトルのピーク周波数が変化したり、たわみ量が大きくなったりするため、これらの分析結果から橋梁を経時的にモニタリングすることで劣化を監視することができます。

 無線カメラセンサーではセンサーで撮影した画像から主桁の変位量を分析し、無線変位計の変位量と比較することで計測精度を評価しました。図7に結果を示します。

図7 無線カメラセンサーによる変位分析結果

 

 無線カメラセンサーの結果は、無線変位計と比べ測定値のばらつきは若干大きくなっていますが、平均誤差は2㎜程度でした。無線カメラセンサーは測定対象に接触させることなく離れた位置に設置することができるので、センサーの設置位置に対する制約を大きく緩和することができます。このため、数㎜程度の誤差が許容できるモニタリング用途において非常に有効なセンサーと考えられます。

 

 図8に太陽電池駆動のゼロエナジーゲートウェイの発電量と蓄電池電圧を示します。

図8 ゼロエナジーゲートウェイの発電量と電池電圧

 

 本実証実験では、比較的計測データ量が多い無線加速度センサー(3時間毎に約12KBの計測データを送信)を2台と無線カメラセンサー(6時間毎に約70KBの計測データを送信)の3台をゼロエナジーゲートウェイに接続しました。また、ゼロエナジーゲートウェイが動作可能な蓄電池の電池電圧は2.4Vです。実環境の運用においても、1日の発電量で1日分の消費(電池電圧降下)が十分賄えており、太陽電池駆動のゼロエナジーゲートウェイの運用が可能であることが確認できました。

 本実証実験では、桁の振動と主桁の変位を測定していますが、振動や変位のモニタリングが必要な個所、例えば、床版の振動、床版の継ぎ目やクラックなどの変位や歪の計測が必要な個所、特に電源確保が困難な場所への適用が有効と考えられます。

 

本技術の適用性

 本実証で使用した無線加速度センサー、無線変位計、無線カメラセンサーおよびゼロエナジーゲートウェイは、配線工事不要で簡易に設置ができ、構築したシステムが設定どおりに安定して動作しデータを収集可能なことが確認できた。また、センサー側での分析処理により送付データの容量を小さくすることで、省電力なデータ収集が可能となった。さらに本実証実験では、供用中の実構造物の計測で2年間の連続動作が実現できた。現在、インフラの維持管理は予防保全に移行しつつあり、インフラモニタリングシステムの重要性は増すと考えられる。本技術は、インフラモニタリングシステムの導入、普及に貢献する技術と考えられ、今後、構造物全体としての劣化現象と損傷の評価に結び付けるには、省電力無線モニタリングシステムに接続する無線センサーの種類(歪ゲージ、腐食センサーなど)やセンサー側での分析処理能力の拡充などが課題となるが、インフラ維持管理システムやインフラ3Dモデルと連携することで、より実用的で使い易いシステムへの発展が期待される。

 

先進技術保有企業

 沖電気工業株式会社

 ソリューションシステム事業本部

 社会インフラソリューション事業部

 https://www.oki.com/jp/infra_monitoring/

 プレスリリース記事(2021年7月8日)

 橋梁健全評価における無線・電池駆動「省電力構造物モニタリングシステム」の長期安定動作を検証 

 https://www.oki.com/jp/press/2021/07/z21021.html

 本実証実験の一部は、沖電気工業が総務省SCOPE(国際標準獲得型)JPJ000595の委託を受けて実施したものです。

 

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