PROJECT REPORTプロジェクトレポート

REPORT 0011

光ファイバーを用いたインフラモニタリング技術

2021.04.02

 本技術検証は、課題番号0005「長時間低コストでインフラ施設をモニタリング」に対して、光ファイバーセンサーによる歪み測定技術の性能を高架道路コンクリート床版において検証したものです。このプロジェクトレポートでは計測開始から1年間のモニタリング結果について報告します。

 

インフラ運営・維持管理上の課題

 従来、インフラ施設の維持管理は事後保全によるところが多く、損傷が重大になってから大規模な修繕を行うことがほとんどでした。これに対し、図1に示すように定期点検の結果に基づき、劣化の度合いが低い段階で小規模な補修を行う「予防保全」を実施することで、最小のライフサイクルコストで必要なサービス水準を維持することが求められています。
 このためには、インフラ施設の定期的な点検を確実に実施することはもちろんのこと、既に老朽化の進んでいる施設ではより短い間隔でのモニタリングを実施することが期待されています。しかしながら、モニタリングに多大な費用が必要となれば、維持管理予算を圧迫し、必要な維持管理が出来なくなるなど、逆効果となってしまうため、低コストで長期的なモニタリングが出来る方法が求められています。

 

 
図1 インフラ施設の健全度とメンテナンスによる機能回復のイメージ

 

本プロジェクトの目的

 本プロジェクトでは低コストで長期的なインフラ施設モニタリング手法として光ファイバーを用いる手法を検討し、この手法を高架道路コンクリート床版に適用してその適用可否を検証します。検証項目として長期的な橋梁床板のひび割れ・振動・変位の継続的観測を実施することで計測性能の確認と向上を図ります。このプロジェクトレポートでは計測開始から1年間のひび割れ発生と進展のモニタリング結果について報告します。

 

先進技術の概要

 本プロジェクトではインフラ施設のモニタリングを実現する手段として光ファイバーセンサーを活用します。図2に光ファイバーセンサーによる計測イメージを示します。

 


図2 光ファイバーセンサーによる計測イメージ

 


図3 インフラ施設のモニタリング概要

 

 光ファイバーセンサーは、光ファイバーへの入射光(バルス光)と反射光(後方散乱光)の周波数差を計測・解析することで歪み・温度情報を得ることができます。
 図3にインフラ施設のモニタリング概要を示します。光ファイバーを用いたモニタリング手法は、インフラ施設に固定した光ファイバーをセンサーヘッドとして光ファイバーセンサーでモニタリングすることで各健全度段階に対応した計測手法を選択的に実施可能とし、ライフサイクル全般を通して大幅なシステム更新を不要とする健全度モニタリングを実現する可能性を秘めています。

 

先進技術の現場検証結果

 検証実験は図4に示す衣浦豊田道路/牛田料金所周辺の高架道路コンクリート床版で実施しています。図5に光ファイバーの設置状況(光ファイバー端部&ループ部)を示します。計測対象となる光ファイバーは当該コンクリート床版背面に車両進行方向に沿って接着剤で固定されています。本検証実験では対象となる高架道路の健全度状態を考慮し、健全度IおよびIIに対応するひび割れ発生と進展のモニタリングを目的とした歪み計測を先行して実施しています。

 
図4 実証実験状況の概略(牛田料金所周辺)

 

図5 光ファイバー設置状況(光ファイバー端部(図6のB,C端)&ループ部)

 


図6 光ファイバーの敷設レイアウト

 

 図6に光ファイバーの敷設レイアウトを示します。計測用光ファイバーは上図に示す通りFiber-AおよびFiber-Bの2系統を設置しています。Fiber-Aは高浜市から豊田市に向かう車線のコンクリート床版背面に、Fiber-Bは豊田市から高浜市に向かう車線のコンクリート床版背面に設置されており、各系統ともに光ファイバー全長は90 m程度となっています。コンクリート床版にひび割れが発生した場合、ひび割れを跨ぐ区間で光ファイバーの伸長状態が変化することになり、このときの歪み変化を観測することでひび割れ状況を検知・監視します。

 

検証結果

 本プロジェクトではこれまでに3回(2020年1月、2020年11月、2021年2月)の歪み計測を実施しています。得られた結果は以下の通りです。図7にFiber-Aにおける歪み分布および差分分布を示し、図8にFiber-Bにおける歪み分布および差分分布を示します。上図において横軸は計測装置からの光ファイバーに沿った距離を示しており、Fiber-Aでは44 m~58 mおよび59 m~73 m、Fiber-Bでは45 m~59 mおよび60 m~74 mが計測区間になります。縦軸は計測装置からの各距離における光ファイバーの引張歪み量および2020年1月の計測結果を基準とする引張歪み差分量を示しています。

 引張歪み分布は光ファイバー取付工事時にあらかじめ初期歪みとして与えた分布が起点となり、以後発生する歪み量変化はこの分布に重畳されることになります。今回得られた結果からは図の赤点線部(これは光ファイバー固定時の初期歪み量の不均一性によりその変動領域で計測精度が低下していることが原因であることがわかっています)以外に顕著な歪み変化が観測されませんでした。従ってひび割れ箇所を跨いて光ファイバーが伸長することによる局所的な歪み分布変化(上図では上向きのスパイク形状の分布が重畳されることになります)が発生しなかった、すなわち、2020年1月から現在までの間に新たなひび割れ発生や既存のひび割れの進展がなかったと判断しました。目視点検でもコンクリート床版には新たなひび割れが見られなかったことから上記判断が正しいことも確認できました。

 

図7 Fiber-Aにおける歪み分布および差分分布

 


図8 Fiber-Bにおける歪み分布および差分分布

 

技術の評価

 従来、5年毎の定期点検において健全度Ⅲと診断された場合は、5年後の次回定期点検までに補修工事など何らかの対応を取ることと、補修工事が実施されるまでの間は定期的に(通常は1年毎)点検を行うことになっています。今回の実証実験により、光ファイバーを用いたモニタリングの技術を用いることで損傷個所の点検を自動化できると考えています。

 

今後の取組み予定

 本プロジェクトではこれまで実施してきた歪み計測を2024年まで継続実施し、ひび割れの経年劣化過程をモニタリングします。さらに振動・変位に関するモニタリングにつきましても同時に検討・検証を進めていく予定です。

 

先進技術保有企業

沖電気工業株式会社/インフラモニタリングソリューション
https://www.oki.com/jp/infra_monitoring/

 

既発表論文等
OKIテクニカルレビュー第234号, Vol.86, No.2, pp.36-39, 2019年12月
『光ファイバーセンサーを用いた鉄筋コンクリート橋梁のヘルスモニタリング』
https://www.oki.com/jp/otr/2019/n234/pdf/otr234_r12.pdf

 

OKIプレスリリース 2019年2月12日
『OKIと前田建設、光ファイバーの計測高速化により橋梁モニタリングの適用範囲を拡大』
https://www.oki.com/jp/press/2019/02/z18084.html

 

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